sealer del sol (シーラーデルソル)

Guapo!WEBマガジン[グアッポ!]

vol.9

洞窟の中を一息で泳ぐ、公式ギネス世界記録を2つ持つ水中表現家の二木あいさん。活動を通じて語りたい想いやそのライフスタイルについて伺いました。

水中表現家二木 あい

Photo:殿木修司
文:斉藤未希
Hair & Make:山口司紗/ 大久保里香
Video:Shingo
Special thanks:千木良貴子
「水」との出会いは?

一番初めは3歳くらいの時に競泳を始めたことがきっかけです。
ずっと続けていたのですが、怪我で選手としての道が閉ざされてしまい、その後高飛び込みをやってみたり、ボディボードをやってみたり、サーフィンをやってみたり。今考えると、いつでも「水」と繋がる事をやっていました。
ある時、将来やりたいと思った夢が現実では全然違うもので、想い描いていた真っすぐのびた道のりが雲に隠れ、ポカンと穴があいた。そんな時、やりたかったことは何だろう?と思い立ち、直感的に「水」に帰ろうと思い、ウォータースポーツで唯一やったことがなかったスキューバダイビングを始めたんです。

ダイビング資格を取得するため、初めて水の中に頭までどっぷり浸かった時、言葉には言い表せない心地いい感覚、「ああ、私の居場所はやっぱりここなんだ!」という感覚。そこから水の中の生活が始まりました。

ありとあらゆるウォータースポーツをやったわけですね。

やれる機会があれば、やったことがないものはチャレンジするタイプなので・・・。やってみて、好きか嫌いか判断してますね。

そこから、機材を使わない「フリーダイビング」に至った理由は?

スキューバダイビングは、タンクを背負って潜り、呼吸する際に「スースー」と大きな音がしますし、吐く時には「ブクブクブクブク」と泡が出るんです。それは、水中にいる動物たちにとっては普通の生活にはない音。だからどんどん逃げていってしまう。それだと水中世界は映画を見ているようにとても遠い世界で、自分は蚊帳の外、という感じがして全く溶け込めない。さらに、圧縮空気を吸っているので自由自在に泳げないですし、潜水時間にも制限がある。
そんな時に、友人に誘われてフリーダイビングというものを何も知らずに体験してみたら、あら! 偽りがきかず、自分の肺が全てなので、他の哺乳類と同じように息が続かなくなったら水面に上がり呼吸をする。一番自然な形だと思いました。スキューバタンクを背負っていないので自由自在に泳ぎ回れますし、何より音が出ない。より彼らに近い感じで水の中に、水中動物の一部として居られる。一番しっくりきましたね。

―ということは、最初から海の中の生物と共存しようという気持ちがあったんですか?

意図的、というよりは自然に任せるとそうなった、と言う感じです。
本能的に想いがあったのでしょう。

―素人考えだと、「ずっと息ができていたほうが楽だし自由自在だし、逆に素潜りだと短時間しか潜れないし」と思ってしまうのですが?

それは一方からしか見てない見方だと思います。知らない世界、というのは理解しがたいですよね。だけれども、水中ほ乳類も息が続く間しか水中に居られないし、人間だけが「ずっと居られる」というのもおかしな話だと思いませんか?

―常人にはなかなか味わえない、「長時間」「深い水中」に「潜る(泳ぐ)」という感覚は、どういうものなのでしょうか?

「頭で考えて出て来る答えではない世界」でしょうか。脳はカラダの中で一番酸素を消費する部分ですし、わざわざ水中で「今日の晩ご飯何にしよう?」と考える必要は無くないですか?だから「瞑想状態」と言われるんですね。
「考えてから行動する」と言うよりも、反射的に自分を信じて感覚で行動する感じ。水の流れであったり、水中で起こっていることであったり、自分がもう上がらなくてはいけないということだったり、瞬間的に判断しないといけないですからね。考えないで感覚で感じ取っているので、五感がより鋭くなります。

―「五感が鋭くなっている」というのを具体的に感じる瞬間とは?

魚が来るのが気配でわかったり、とか。

スキューバダイビングは、「水の中にいる」感覚がなくなり、「宙に浮いている」感じがするのですが、カラダひとつで潜っている時は、どんな感覚なのですか?

スキューバダイビングは、 器材を使い中性浮力を取り、基本的に動かずにフワフワと「宙に浮いている」感じで潜ります。フリーダイビングは、魚と一緒でフワフワしながらも、 水を感じ、水の流れに反発せず一体になります。水の一部になった感じですよね。

他にはない「水中表現家」とは?「フリーダイバー」とのつながりをお聞かせください。

まず「フリーダイビング」という言葉。競技として捉えてしまいがちですが、そうではないのです。フリーダイビングとは、息を止めて潜る「素潜り」と全く同じ意味。だから、例えばシュノーケリングをしていて、ちょっと数メートル潜ってみる、というのも立派なフリーダイビングです。深く行くことだけがフリーダイビングではありません。私は競技として行っていないので、フリーダイビングを水中で表現するために必要不可欠な道具のひとつとして考えています。だから、息を止めて水中の世界を表現する、『水中表現家』。フリーダイビング自身が目的ではないです。
「水中表現家」という名前を自分で作ったのは、表現の方法を一つに限らない=自分が撮影者であり、モデルであり、パフォーマーであり、陸上でその世界を皆さんと共有する…
という、色々なやり方で水の中を表現していくという意味を含めています。ひとつのやり方に限ってしまうと幅がとても狭くなってしまいますし、 興味のポイントは人それぞれですからね。オールマイティーに提供したかったので。

また、「水中表現」を通して訴えていきたいことは?

普通に陸上生活していたら見る事はまずないであろう、水中世界の美しさ、素晴らしさを伝えて行きたい。私は、想いを込めて発信します。あとは、皆さん次第。私があーだこーだ言ったとしても、 皆さん自身が本当にそう感じ、「あ、そうだ」と気付き、皆さん自身が変わらないと本当の意味では何も変わらないと思うからです。
だからこそ、いろいろな形で表現しています。まずは、「あ~綺麗だなあ」「楽しそうだな」と感じて頂ければ。

この世の中、お金を出せば何でも手に入ってしまいますし、そんな錯覚に陥りやすくもあります。 自分達だけのために地球は存在しているわけではないですよね。自然と共に、持ちつ持たれつ一緒に生きていくからこそ、子どもたちもそのまた子どもたちも生きていけるような環境が存在すると思います。「壊れたらお金で買えばいい」は違うと思います。例えば、母なる海があるからこそ、呼吸が出来るし、洋服もできるわけで(※1)、目に見えていないから存在してないというのではなく、氷山の一角の様に見えない部分が大半を占めている、そこに再び目を向けてもらいたいんです。深く考えず、そういうことを感していただきたいです。
※1 T シャツ1枚を製造するために使用される水の量は約2700 リットルといわれている。

ギネスにトライしようと思った動機は?

水中表現家として水と一体になって泳ぐ姿を一人でも多くの方に観て頂きたかった。そして何より「箔をつけるため」です!名もない「いち」素潜りの人間に対してだと、出来る事が限られてしまう。海好きの子の単なる言葉となり、誰も真面目に耳を傾けてくれません。 でもそれが「ギネス世界記録保持者」となると開ける 扉がたくさんあるんですよ。同じ言葉でも捉えられ方が全く違い、なにより真剣に聞いていただけます。
どんな素晴らしいメッセージがあったとしても 、それに耳を傾けてもらえなければ自己満足で終わってしまいますからね。

そこに向けてガラリと変えたこととか、やったことはありますか?

私は単なる「偶然」はない、偶然も必然の一つだと思っています。また、良い事も悪い事も意味があって起こった、経験した、と考えています。
今回の場合だと、メキシコには洞窟が5000以上あって、身近にギネス世界記録を行うのにぴったりのセノーテがあった。また、昔住んでいたので現地の言葉を話しますし、勝手もわかります。そして何よりサポートしてくれる仲間が沢山いたことです。その環境は、「やれよ!」と背中を押された様で。ガラリと変えたことは、 自分の限界に挑戦ではなく、泳いでいる姿を皆さんに見て欲しかったので、身体を一からつくり直し、「姿=泳ぎ方」を特訓しました。
ガシガシ行くのではなく、水の流れに乗ってどこまで美しく行けるかを重点的に練習しました。 人でもない、魚でもない・・・でも何だか美しい・・・泳ぎを。

ギネスの記録を手に入れた時の潜り(泳ぎ)は、それ以外の時と違ったことはありましたか?意図的に変えたことはあったのですか?

それまでは感覚的に潜っていただけで、「見られる」ことを意識していませんでした。ギネスを獲る!と思った時から、「魅せる」ことに意識を転換しました。
自分がただ気持ちよく潜っているのではなく、気持よく潜っている姿を見てもらってその気持ちよさ、水との一体感を感じて欲しいという一つ上のステージに変わりました。今もそのスタイルを続けています。それが「水中表現」につながっているんです。なので、ギネス世界記録も表現の一環です。
その表現に、「世界初」というギネス世界記録がくっついてきた、と言う感じですね。

ファンレベルでもプロレベルでも「この瞬間のためにスポーツをやってるんだな」という瞬間があると思いますが、二木さんにとって、「この瞬間」とは?

私はスポーツとしてはやっていません。スポーツとしてやるのであれば、単に泳いでいるはずです。いらない力、消費する酸素を減らすか?ということなので、スポーツと言うよりもリラックスする場所ですね。

肉体を使って身体を動かすことと内面には密接な関係があると思いますが、身体を動かすことは、精神へどの様が影響があると思いますか?

頭が 頂点に立ち、心と体に司令を出しているわけではなく、3つがバラバラに存在していて、それぞれが助けあって一つのことができると思っています。一つだけが強くてもガタがきてしまいます。だから、どれだけ頭と心と体を一つにつなげられるか?それが顕著に現れるのが素潜りをしている時。どれだけ素潜りしている時に、自分を客観的に見られるか、が大事だと思います。ドップリ自分の世界に入ってしまうと、体が出しているサインも見えなくなってしまいますからね。

フリーダイビングは、「フィジカル」だけでなく「メンタル」も大切、ということですが、日常の中で、フィジカルとメンタルのバランスをどうとっていますか?

仕事としてはもちろんの事、フリーダイビングは趣味でもありライフワークとなっているので、出来るだけ自然に付き合っています。もちろん、フリー ダイビングを始めた頃は、体、メンタルを順応させるため、トレーニングを行いました。今はそれがベースとなり、プラスアルファとしてその時に出来る事をやっています。また、ストレスをためない様にオン、オフははっきりしていますね。

アウトドアスポーツと美容は、ある意味対極の位置にあると思いますが、二木さんが考える「女性の美しさ」とは?

ナチュラルビューティー。内面から溢れ出る美しさ。
外面をどれだけ塗りたくっても、内面がボロボロだと、いつかは崩れると思いますし、中身がからっぽだと、それは人形でしかないですからね。

「ビューティー」のために、気にかけている(やっている)ことはありますか?

出来るだけストレスをためない様に、その時その時を楽しめる様に「自分に正直に生きる」ことです。

二木さんの姿を見て、「フリーダイビングをやってみたい」と思う人が出てくると思いますが、その方々にひと言。

まず第一歩は、「できない」という思い込みを取っ払ってあげること。私たちは、自分が思っている以上に凄いんですよ!  思い込みを取っ払ってあげさえすれば、できてしまうことも多いんです。 とにかく体感して欲しいですね。フリーダイビングは、資格が必要なものではないので誰でもとても簡単に出来ます。ただ、自然相手に行うので、基礎はちゃんと学んで頂きたいです。
自分が教える時に大事にしている事は、水と仲良くなる、自分を信用する、ということ。2日で最大深度20mくらい行けちゃうこともあります。自分で自分にビックリ!しますよ。
その体験は、ライフスタイルや仕事にどんどん応用できます。自分が「できない」と思い込んでいた事ができたんですからね。

2つのギネス記録。“洞窟の中を一息で泳ぐ” ギネス記録で、フィンあり100m、フィンなし90m を樹立。2012 年公式ギネスブックに記載されている。
右は二木さんの描くマスコットキャラクター。
今後の活動についてお知らせください。

2013 年は、ワークショプ、ツアーとして楽しむためのフリーダイビングを一から学べる機会を沢山計画しているのでご期待ください。また、水中表現家として、美しい水中世界をどんどん表現していきたいですね。それは水中写真のモデル、パフォーマンス、自分で映す映像はもちろん、新たな事にも挑戦していきたいと思います。そしてその活動がやりっぱで終わらない様、陸上でみなさんとシェアーしていきたいです。

人生で大切にしていることのバランスを円グラフにして表現してください。

「感覚」です!色々ある中で、感覚が自分全てのベースになっていると思うので、一番大事にしています。

Profile
二木 あい Ai Futaki

フリーダイビング(閉息潜水)での水中パフォーマンス、水中モデル、Under watervideographer として世界で活躍中。2011 年、メキシコのセノーテチキンハにてギネス記録に挑戦。“洞窟の中を一息で一番長く泳ぐ” 種目にて、フィンあり、フィンなし両記録を樹立した。フィンなしは世界初、フィンありは女性初の快挙。

Official WebSite:http://ai-futaki.com
Facebook :http://www.facebook.com/aifutaki
Ameba blog: http://ameblo.jp/aifutaki/

シンガポールを中心にファッションや企業広告などの世界で活躍する写真家 Aaron Wong が表現する水中の世界。
二木さんはモデルとして登場し、美しい海に花を添える。水中の美しさを人々に伝えたいという2人の共通した想いにより生まれたコラボレーション作品。
問い合わせ先:フィットプラス chigi@fitplus.co.jp