sealer del sol (シーラーデルソル)

Guapo!WEBマガジン[グアッポ!]

vol.37

フェンシングという名の修行の先へ。
フェンシングエペ日本代表鈴木穂波の
東京オリンピックを目指す道のり。

フェンサー鈴木 穂波

photograph / Shuji Tonoki
text / Rika Okubo
Episode1

オリンピックの道をを志すために、フェンシングと出会った。思えば幼いころから、憧れを感じるのはスポーツだった。小学校の頃はマッスルミュージカルに心をときめかせ、中学校の頃は北京五輪の女子ソフトボールの活躍に涙した。
中学二年、地元沼津の広報誌にフェンシング教室の募集をみつけた時、母がこう言った。「フェンシングはオリンピック競技よ。」それなら、やってみたいと思ったことがきっかけだった。母は鈴木がやりたいといったことは、いつも心ゆくまで取り組めるようサポートしてくれた。
そこから毎日欠かさず練習を始めた。結果は練習に比例してついてきた。フェンシング部のある高校を受験、進学し、そこでも毎日練習に明け暮れた。部活の後、コーチの元へ移動し、21時までまた練習する。実際のところ、当時はこの競技が自分に合っているとも思っていなかった。この競技を好きという感情とも違う。勝ちたいし、勝てるから続けていたというのが正直なところだった。
反面、練習は大好きだった。毎日一つずつ積み重ねた先に、結果がついてくるというのを実感できていたからだ。結果が出るのは爽快だった。どんなにきつい練習も、辞めたいと思ったことは一度もなかった。

Episode2

フェンシングは、相手の心を読み試合のアドバンテージをとるというのが大きな見所だが、更にフルーレ・エペ・サーブルという3種目に分けられ、競技性が異なる。鈴木が取り組むのは、攻撃権がなく、頭から足の先まで全身が有効面であるエペ。どんな形勢からもとにかく突けば勝ちという、がむしゃらでダイナミックな種目である。だからこそ、試合時々の流れや精神力が大きく問われ、試合展開も読みにくい。
試合に向かう上で、自分と向き合うことは非常に重要だ。迷いや疑い、妥協は必ず試合で表面化する。自分を理解し、信じ通すことができるか、その上で相手と正面から向き合わねばならない。
大学二年生の時、それは訪れた。2年に一度行われる大学生のオリンピックと言われるユニバシアードの大会予選に向け、コンディションは絶好調、鈴木は勝ち上がる自信に満ち溢れていた。この試合に賭けていた。自分を心から信じていたし、その気持ちや情熱を周囲にも惜しむことなく伝えていた。
結果は、準々決勝敗退。一方負けた対戦相手は優勝を勝ち取った。目の前が真っ暗になった。会場の客ですら全員が自分を指差し、悪口を言っているように感じる。鈴木は、結果を出せず有言実行を示せなかった自分を許すことができなかった。スランプの始まりだった。

Episode3

一本勝負が全く勝ちきれなくなる。15本勝負で14本まで勝ちを取れても、最後の最後で自信がなくなり、どうしても勝つことができない。やがて、感覚も感情も不安定に歪み始める。果たして勝っているのか、負けているのか、自分の何を感じているのかすらもよく分からない。状況が好転する糸口すら見つからないまま一年以上が経ち、フェンシングはそろそろ辞め時、そんな気持ちを固めていた。
そんな最中、鈴木は大学のカリキュラムで母校の高校へ教育実習に行くことになる。高校三年の時担任してくれた先生の下、まっさらな高校生達と過ごす時間は鈴木にとってかけがえのない時間となった。彼らと毎日顔を合わせ挨拶をしたり、夢の話をする時間は、改めて自分自身を見つめなおすきっかけとなった。実習の三週間が終わる頃、あれだけ苦しく思い悩んでいたフェンシングへの迷いが不思議と晴れていた。一年以上、自分のことを口にすることすら苦痛だったが、フェンシングで東京オリンピックを目指したい、そうはっきり口にすることができた。
そして、自分の気持ちに素直になれたこの瞬間から、徐々にスランプから抜け始めた。
迎えた全日本インカレ。予選から苦戦の末勝ち上がり、結果は準優勝。団体戦においては、全日本選手権・全日本インカレ共優勝に輝いた。
鈴木の好きな言葉がある。“未来は今の積みかさね”。スランプに陥っていたタイミングで、92歳の祖父のくれた言葉だという。「1年は1ヶ月の積みかさね、1ヶ月は1週間の積みかさね、1週間は1日の積みかさね、1日は1時間の積みかさね、1時間は1分の積みかさね、そして1秒の積みかさね。今のこの一瞬が未来を作ってるんだ。」
大きくジャンプすることを期待するのではなく、今の自分が未来をつくることと向き合い、実直に、誇り高く生きていきたい。積み重ねは必ずぶれない自分を築いてくれる。フェンシングという競技は、それが大きく表れる競技だと思うのだ。

Episode4

オリンピック最終選考発表の4月を待つ今現在、日本代表として世界の試合を戦いながら寝ても覚めてもフェンシング漬けの日々を送っている。幼い頃、北京五輪を見て憧れたオリンピックまで、あともう少し。手が届くか、届かないかの瀬戸際だ。フェンシングという競技をやりきった先に、一体何が見えるのか。
長い剣をまるで指先のように扱い1cmのところで突く繊細さ、そのための身体能力や筋肉のバランス、自分の技を決めるためにどう心理戦を戦い、相手を動かすか、自分のやりたいことをいかに冷静に見極められるか・・・。いつのまにか、この奥深い競技の虜になっていた。フェンシングを通じてこそ、きっといつか自信を持って自分の言葉で伝えられることがある。
来週からまたスペインへの遠征だ。将来への糧は今この瞬間にある。今日も変わらず戦うのみだ。

Profile
鈴木 穂波 Honami Suzuki

1994年11月1日生まれ 25歳O型
株式会社エスクリ所属
静岡県沼津市出身 東京都渋谷区在住
静岡県立沼津西高校卒業後、日本大学文理学部体育学科卒業。
全日本選手権 個人3位、団体優勝、ユニバーシアード日本代表、世界選手権日本代表
第26期燦々ぬまづ大使
好きな食べ物はとんかつ
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